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日本円に換算すれば約三百兆円ということになり、アメリカ国民の消費意欲は冷え込んでしまうことが予想される。
しかし、同じ時期の住宅資産の上昇は二・五兆ドルに上った。 にわかに起こった住宅ブームは住宅価格を急速に押し上げて、株式で喪失した資産のかなりの部分を埋め合わせていたのである。
測していたという。 案の定、消費は回復するだけでなく、住宅価格の上昇に支えられて、じきに過剰消費が復活している。

二○○三年になると、住宅価格もブームというよりはバブルの兆候を見せ始めていた。 英経済誌『エコノミスト』二○○三年五月三十一日号は世界の住宅バブルを特集して、ロンドンやダブリンなどと並んでニューヨークの住宅価格上昇が激しく、何か経済的ショックが起これば、アメリカの住宅価格は一五%から二○%は下落するだろうとの予測を行なっている。
しかも、同誌はアメリカ人の資産に占める住宅は株式の六倍に相当し、住宅価格の下落がアメリカ経済に与える影響の大きさも示唆していた。 もちろん、この住宅ブームは、Aさん率いる連邦準備制度理事会が行なった金融緩和策によって支えられていた。
今回の金融崩壊で最大の原因とされたサブプライム・ローンが本格化するのは二○○三年以降だから、それまでは政府系住宅金融機関であるM社やF社が扱うプライム・ローンが中心だった。 にもかかわらず、すでにバブルの兆しは見えていたのだ。
サブプライムが急伸するようになって、Aさんはその危険に気がついていたとはいうものの、経済的影響については楽観的だった。 彼は自伝で次のように述べている。
B政権はさらに、金融市場の健全性を維持するために不可欠だとFRBが考えて助言した政策を取り入れてもいる。 とくに重要なのは、二○○三年に、M社とF社の行き過ぎを抑える動きをはじめたことだ。
ところが、両社の取引によって市場が歪み、危険にさらされるようになってきたうえ、問題が拡大しつづけているように思えた。 だが両社は優秀なロビイストを雇っていたし、議会には強力な味方がいた。

とくにヒスパニックと黒人では、持ち家比率が劇的に上昇している。 経済的に豊かになったうえ、政府が信用力の低い層を対象とするサブプライム住宅ローンを奨励して、マイノリティの多くがはじめての住宅を購入できるようになったからだ。
また、M社とF社がプライム・ローンにおいても審査が甘くなり、暴走をしていたことも、Aさんは知っていた。 いずれにせよ、この自伝を読むかぎり、住宅ブームを主導してついには住宅バブルをもたらした大きな要因が、Aさんに率いられたFRBの金融緩和策であり、B政権のサブプライム推奨策であったことは否定できない。
そして周知のように、B政権が推奨していたサブプライム・ローンが今回の金融崩壊を引き起こし、プライム(優良)なローンだけを扱っていたことになっていたM社Aさんの自伝が奇妙なのは、政府系金融機関のプライム・ローンのほうは自分が助言したのに、ロビイストや民主党のせいで抑制が効かなかったと述べていながら、はるかに危険なサブプライム・ローンの加速については、政府の方針を評価して、アメリカにとってよかったと自分でも述べていることである。 わたしはそれ以前に、サブプライムの借り手向けの貸出基準が緩められたとき、金融リスクが高まることに気づいていたし、政府の補助によって住宅所有を促がす政策で市場が歪むことにも気づいていた。
しかし住宅所有者層の拡大による利益は大きいので、このリスクをとる価値はあると考えていたし、いまも考えている。 もちろん、巨大なアメリカ経済がバブルを拡大しているときに、いかに金融政策において絶大な権力を持つFRB議長でも、それを抑制して破裂するのを回避するというのは困難なことだろう。
それはこれまでの、多くの経済バブルの歴史が示している。 そのことはAさんも述べていて、Aさん崇拝者は必ずそのセリフを引用することで、Aさんの二つのバブルにおける責任を弁護する。
Aさんは二○○六年十月、BMCファイナンシャル・グループ主催の昼食会で、バブルは抑制できないのかと質問されたとき、九四年のさいの○・七五%の金利引き上げを取り上げ、それがバブルを解消できないどころか、悪化させてしまったと語り、次のように結論づけている。 F社も、いまや完全に破綻して政府の管理下に置かれている。
二○○五年になると住宅バブルは誰の目にも明らかに見えた。 この年、新規に購入された住宅の四○%はセカンド・ハウスだった。
同年、Aさんはある席でこの住宅ブームはバブルではない、それは「フロス」だと語った。 フロスとはビールなどの小泡を意味するが、このとき住宅バブルは、もはや破裂の兆しを見せていたのである。

しかし、これはまったくの言い逃れだった。 Aさんは九四年の利上げの直後、FOMCで「あらゆる観点から考えて、バブルが解消されたことを明確に示せた」と勝利宣言をしていた。
さらに、翌年二月のFOMCでも自分の利上げが効果的だったことを誇っていたのである。 Aさんは、日本のバブル崩壊を詳細に研究することで、バブルを起こさない金融私たちは市場から多くのバブルを取り除きました。
現にこれまでの政策で成功した点のひとつは、人々が感じていた株価の不安定性を大幅に軽減し、懸念度合いを格段に下げたことでしょう。 こうして私たちはバブルが解消できないことを悟り、バブル自体ではなく、事後処理に集中することにしたのです。
二○○一年まで緩和策をとらなかったのは、バブルが完全に終わったことを確認したかったからです。 こうして見てくると、Aさんが神のような能力を持っていたとか、あるいは、自分の言動に誠実な態度を取っていると認定することはできない。
最初の失敗である「ブラック・マンデー」を招いた金利上げについて、自伝では次のようなことも記している。 FOMCの議長は、FRB議長が務めるのが慣例だが、正式には毎年、委員の投票によって選ぶことになっていて、FRB議長以外の委員を選ぶこともできる。
もちろん、通常は慣例が破られることはない。 それでもわたしは、六人の理事に見放されれば、何の権限も政策を編み出したとか、あるいは、穏やかなバブル崩壊に導くことで被害を最小に食い止めることを身につけたなどといわれた。
しかし、ITバブルを回避することが出来なかっただけでなく、その崩壊のさいに行なった政策は、新しいバブルを作り上げることに過ぎなかった。 しかも、その新しいバブルはAさんがFRB議長を去ってから破裂し、アメリカの金融システムが崩壊するほどの「事後処理」を強いられることになったのである。
その先を読んでいくと、利上げを強く主張したのは、ニューヨーク連銀総裁のGさんであるということになっていて、しかも、「会議が終わるころには、近く利上げが必要だと全員が考えていたと思う」と記している。 これでは、あの利上げは私の責任ではなかったと言っているようなものだろう。
Aさんが九五年ころに悟っていたのは、金利を上げることで失敗すると批判が急激に高まるということだった。 だから、九六年も株価が異常な上昇を見せているといわれても、数カ月にわたって金利は放置したし、むしろ、株価が異常ではNさんいう理由を見つけようとあがいたのである。

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